親分の世渡り兵法 第2話「全員一致の陣、南西へ撤退」

親分の世渡り兵法 第2話「全員一致の陣、南西へ撤退」のタイトルカード

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占術は本気、軍議は大騒ぎ。日常を舞台にしたフィクションです。

木曜の夜九時。二十八歳の会社員、殿👨はベッドの上でスマホを睨んでいた。

部署のグループLINE。
『明日の飲み会、十九時から駅前の「酔虎」ね! 全員参加で!』

行きたくない気持ちが、八割。
断って角が立つのが怖い気持ちが、二割。

下書きは、もう四回書き直した。
『すみません、明日は』
『ちょっと用事が』
『ごめんなさい』
『欠席します』
どれも送信できずに、消した。

気がつくと、殿👨は、また宇宙酒場の前に立っていた。

殿👨「……また来ちゃいました」
親分🐰🍶「おう。枝豆、出てるぜ」

カウンターの奥で、うさぎの親分🐰🍶が徳利を傾けている。殿👨が座ると、枝豆と、なぜか二つ目の湯呑みが出てきた。

窓の外に天の川が広がる宇宙酒場のカウンターで、頬杖をつくうさぎの親分。手前には湯気の立つ星柄の器。

親分🐰🍶「で、今日の悩みは」
殿👨「明日の飲み会を、断りたくて」
親分🐰🍶「ほう。そりゃ退き際ってやつだ」
殿👨「だから、普通に相談したいだけで——」
親分🐰🍶「軍師ども、入れ!」

襖がスパーンと開き、軍師たちが巻物を抱えてなだれ込む。
黒電話を抱えた足軽も、今回は先に座っている。

🪖💦足軽「殿、どうも。あの、僕、今日は何も言いません」
殿👨「えっ」
🪖💦足軽「いつも遮られるので、様子を見ます」

🧭⚔️奇門軍師「殿! 撤退の方位を読みました! 二十一時の盤、南西は開門にございます!」
殿👨「かいもん……?」
🧭⚔️奇門軍師「道が開く門! 出口が開いております!」
殿👨「出口……」

📜🧮金函軍師「お待ちを! 拙者の盤でも、最良の方位は南西! 生門、七十五点!」
🧭⚔️奇門軍師「なんと!」
📜🧮金函軍師「しかも『飛鳥跌穴』と申す大吉の格が、南西に出ております!」
殿👨「ひちょうてっけつ……?」
📜🧮金函軍師「ものすごく縁起のよい形、にございます!」

軍師たち「南西で一致じゃ!」
軍師たち「全員一致!」
奇門と金函、がっちり握手。

殿👨「おお、珍しく揉めてない」
親分🐰🍶「珍しいな」

天文方が転がり込む。
天文方「殿! 本日は水星、逆行しておりませぬ!」
殿👨「やった!」
天文方「ただし、土星は逆行にございます!」
殿👨「土星が何したんですか」
天文方「流派によります!」
殿👨「またそれ!」

そこへ易の軍師が三人。
☯️📖易軍師「梅花心易、三つ出ました! 小畜! 豫! 観!」
殿👨「全部バラバラじゃないですか」
易の三派、顔を見合わせた。
☯️📖易軍師・三派一同「……方位は、皆さまにお従いいたす!」
殿👨「卦は!?」
☯️📖易軍師・三派一同「それはそれでございます!」

殿👨「で、結局、どうすればいいんですか」

軍師たち、声をそろえた。
軍師たち「南西へ撤退でございます!」

殿👨「南西って、どこですか」

奇門の軍師が、地図を畳に広げた。殿👨の職場を中心に、南西へ、すーっと指が滑る。
指は、赤い丸の上で止まった。

🧭⚔️奇門軍師「こちらにございます」
殿👨「……『酔虎』って書いてありますけど」
🧭⚔️奇門軍師「飲み会の会場にございます」
殿👨「撤退じゃなくて、突入じゃないですか!」
📜🧮金函軍師「飛鳥跌穴にございます!」
殿👨「穴に落ちてる!」

軍師たち「全員一致ゆえ、間違いなし!」
殿👨「全員一致なのが、一番こわいんですけど!」

大喜利が始まった。殿👨が頭を抱える。
殿👨「じゃあ、断り文句だけでも!」

🧭⚔️奇門軍師「南西に急用ができまして!」
殿👨「会場です!」
📜🧮金函軍師「本日の殿は、七十五点ゆえ辞退いたします!」
殿👨「点数で断らないで!」
天文方「土星の逆行につき、欠席させていただきます!」
殿👨「上司に土星の話は通じません!」
☯️📖易軍師・小畜派「少しだけ顔を出して、すぐ帰ります!」
殿👨「それが一番、現実的じゃないですか」
☯️📖易軍師・小畜派「あ、いけますか」

親分🐰🍶は、枝豆の皮をむきながら、うさぎの耳だけを、ぴくりと動かした。

足軽が、そっと手を挙げた。
🪖💦足軽「あの……」
軍師たち「今は軍議の最中じゃ!」
🪖💦足軽「はい。見ます」
足軽、手を下ろした。

しかし、殿👨は聞いていた。
殿👨「待って。何を言おうとしてたんですか」
🪖💦足軽「いえ、あの……『明日早いので、今回は失礼します』って、今夜のうちに一通送っておけばいいのでは、と」
軍師たち「…………」
🧭⚔️奇門軍師「それは、撤退の最短経路……!」
📜🧮金函軍師「飛鳥跌穴より早い……!」
天文方「土星の逆行を超えた……!」

殿👨は、スマホを開いた。
グループLINEに、打ち込む。
『明日は予定があって、今回は行けません。次は参加します! 誘ってくれてありがとうございます』

送信。

三十秒後。
幹事『了解! 次回ね!』
先輩『お疲れ〜』

殿👨は、深く息を吐いた。

親分🐰🍶は、湯呑みを置いた。
親分🐰🍶「揃いも揃って、会場に向かってどうすんだい」

軍師たち、全員、固まった。
足軽だけが、小さくうなずいた。

—— 第2話 終 ——

今日から使える兵法 その二「撤退」

断るのは、負けではなく撤退です。ポイントは三つ。早めに伝える、短く伝える、感じよく伝える。理由を盛ると、後で苦しくなります。「今回は行けません。次は参加します。誘ってくれてありがとうございます」の三文で十分です。明日からできるのは、気が重い誘いを一つ思い浮かべて、この三文をメモに書いておくこと。送るかどうかは、そのあと決めて大丈夫です。


🐰🍶 次回予告:殿👨は友達に誘われて、日帰り旅行の幹事に。行き先の方位をめぐって、軍師たちはまた割れる。
続きは、この物語館で順次公開します。


※この物語はフィクションです。人物・店・日時は架空の設定です。作中の占術データは、架空の日時・条件を設定し、占術ツール「宇宙統合盤」で計算したものです。軍師たちの発言や解釈には、物語上の創作・誇張が含まれます。

「おかえりなさい」と迎える、宇宙酒場のうさぎの親分。星がきらめく夜空の下で杯を掲げ、黒板には「本日のおすすめ」が書かれている。

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