親分の世渡り兵法 第1話「合コンの陣、軍議が割れる」

親分の世渡り兵法 第1話。スマホを手に頭を抱える殿を、奇門・金函・易の軍師たちが取り囲んで口々に叫ぶ宇宙酒場。奥のカウンターで、親分が笑って杯を傾けている。

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占術は本気、軍議は大騒ぎ。日常を舞台にしたフィクションです。

水曜の夜。
二十八歳の会社員、殿👨はスマホを握りしめていた。

友達からのLINE。
『来週金曜、横浜で合コンやるよ! 七人!
ただ、店がまだ決まってなくて……予約してくれる人、探してる。来られそう?』

行きたい気持ちが、三割。
不安が、七割。

服は何を着ればいい?
最初に何を話せばいい?
そもそも、こういう集まりは苦手だ。

殿👨「ああ、誰か相談に乗ってくれないかな……」

気がつくと、殿👨は見知らぬ路地に立っていた。
のれんには、「宇宙酒場」。

引き戸を開けると、カウンターの奥で、うさぎが徳利を抱えていた。

窓の外に天の川が広がる宇宙酒場のカウンターで、頬杖をつくうさぎの親分。手前には湯気の立つ星柄の器。

殿👨「え、うさぎ……?」
親分🐰🍶「おう。見りゃ分かるだろ」
殿👨「しゃべってる……」
親分🐰🍶「まあ座んな。何かあったんだろ?」

親分🐰🍶は、無言で枝豆を出した。
殿👨は、とりあえず食べた。うまかった。

親分🐰🍶「で、悩みは」
殿👨「来週、合コンがあって。服とか、第一声とか、不安で……」
親分🐰🍶「ほう。そりゃ大一番だ」
殿👨「大げさな……」
親分🐰🍶「軍師ども、入れ!」
殿👨「え、誰ですか!?」

襖がスパーンと開き、軍師が四人、巻物を抱えてなだれ込んだ。
後ろから、黒電話を抱えた足軽が、小走りでついてくる。
殿👨「戦争じゃないんですけど!」

🪖💦足軽「あの、先に店の予約を——」
軍師たち「軍議が先じゃ!」
足軽、電話を抱えたまま、隅に正座。

🧭⚔️奇門軍師「殿! 十九時の盤を読みました! 東の『宇宙亭』は生門にございます!」
殿👨「せいもん……って、何ですか」
🧭⚔️奇門軍師「活気と発展の門! 新しい出会いには、勢いが要りますゆえ!」
殿👨「なるほど、東の店がいいってことですね」

📜🧮金函軍師「お待ちを! 最良の方位は北! 休門、七十七点にございます!」
殿👨「きゅうもん?」
📜🧮金函軍師「落ち着きと休息の門! まず落ち着いて話せる場所を!」
殿👨「北にお店はあるんですか」
📜🧮金函軍師「ございません!」
殿👨「じゃあ七十七点は何に使うんですか」
📜🧮金函軍師「……気持ちにございます!」

🧭⚔️奇門軍師「北は拙者の盤では開門だぞ!」
📜🧮金函軍師「盤が違うのでござる!」
🧭⚔️奇門軍師「同じ北で!」
📜🧮金函軍師「別の北で!」
殿👨「占いって、一つじゃないんですか」
親分🐰🍶は、お茶を一つ、殿👨の前に置いた。

そこへ易の軍師が三人。
☯️📖易軍師「梅花心易、三つ出ました! 損! 需! 晋!」

☯️📖易軍師・損派「余分なものを減らせ!」
☯️📖易軍師・需派「焦らず待て!」
☯️📖易軍師・晋派「勇気を出して進め!」
殿👨「減らしながら待ちながら進むんですか」
親分🐰🍶「千鳥足だな」

需派が殿👨に迫る。
☯️📖易軍師・需派「殿! まず、相手の返事を待つのじゃ!」
殿👨「LINEの返事ですか?」
☯️📖易軍師・需派「左様!」
殿👨「……まだ送ってないんですけど」
☯️📖易軍師・需派「では、送ってから待て!」
殿👨「順番、大事ですね」

天文方が星座早見盤を抱えて転がり込む。
天文方「殿! 水星も金星も、逆行にございます!」
殿👨「ぎゃっこう?」
天文方「……流派によります!」
殿👨「何がですか!」
天文方「全部!」

天文方、すかさず次の巻物。
天文方「しかも当夜の月は、殿の生まれの月とほぼ重なっております!」
殿👨「おお、勝てるんですか!」
天文方「流派によります!」
殿👨「それしか言えないんですか!」

殿👨、思わず立ち上がった。
殿👨「じゃあ、合コンの第一声、教えてください!」

🧭⚔️奇門軍師「東より参りました!」
殿👨「住所は聞いてません!」
📜🧮金函軍師「本日の殿は七十七点にございます!」
殿👨「採点しないで!」
☯️📖易軍師・需派「先方から話しかけられるまで待ちます!」
殿👨「合コンが終わります!」
天文方「水星逆行ゆえ、お声が届かぬやもしれませぬ!」
殿👨「言い訳から入らないで!」

親分🐰🍶は、黙って枝豆の皮をむいている。うさぎの耳だけが、ひくひく動いている。

そのとき。
足軽が、そっと電話の受話器を上げた。

🧭⚔️奇門軍師「待て! 予約なら拙者が!」
奇門、受話器をひったくる。
🧭⚔️奇門軍師「もしもし、宇宙亭か。東の席を、東向きに一つ!」

金函がひったくる。
📜🧮金函軍師「北向きの席を所望する!」
店員(受話器の向こう)「……当店、北向きの席はございません」
📜🧮金函軍師「では北の気持ちで!」

需派がひったくる。
☯️📖易軍師・需派「まだ予約するな! 待つのだ!」
がちゃん。切った。

天文方がひったくる。
天文方「風林火山を……いや天守閣! いや宇宙亭! 逆行ゆえ名前が乱れる! 逆行様、七名で!」
店員「……逆行様で承りました。確認ですが、皆さま同じ団体でしょうか」
軍師一同「違います!」
殿👨「同じです!」
店員「……では、代表者のお名前を」
軍師一同「殿!」
店員「殿様ですね。かしこまりました」

足軽は、ひったくられるたびに受話器へ手を伸ばし、五回目であきらめた。

座敷の電話が、また鳴った。足軽が出る。
🪖💦足軽「……はい。……はい。宇宙亭さんから、『東向き二件、北向き一件、名義の怪しい逆行様一件、いかがいたしましょう』と。しかも、金曜十九時の空席は、あと一組だそうです」

全員、固まった。

親分🐰🍶は、お茶をずずっと一口すすり、湯呑みを置いた。
親分🐰🍶「おめぇら、星は読めても空席は読めねぇな」

殿👨「……自分で電話してきます」
🪖💦足軽「殿、僕が最初から——」
殿👨「いや、君が一番の軍師です」

殿👨がスマホを取り出すと、LINEの画面はそのままだった。
殿👨は、ゆっくり入力した。
『行く! 予約、俺が取るね』

親分🐰🍶は、枝豆をもう一皿、そっと殿👨の前に置いた。

—— 第1話 終 ——

今日から使える兵法 その一「兵站」

占い、星、方位をあれこれ調べて、肝心の予約を忘れる。……ありますよね。兵法ではこれを兵站、つまり作戦を実行するための準備と呼びます。明日からできるのは一つだけ。何かを計画したら、まず「相手の予定を聞く」か「予約や手配を一件済ませる」。LINEなら「その日、空いてる?」の一通でも十分です。風を読むのは、帆を張ってからで間に合います。


🐰🍶 次回「全員一致の陣、南西へ撤退」
続きは、この物語館で順次公開します。
(この回の計算の裏側は、後日、別の形でまとめる予定です。)


※この物語はフィクションです。人物・店・日時は架空の設定です。作中の占術データは、架空の日時・条件を設定し、占術ツール「宇宙統合盤」で計算したものです。軍師たちの発言や解釈には、物語上の創作・誇張が含まれます。

「おかえりなさい」と迎える、宇宙酒場のうさぎの親分。星がきらめく夜空の下で杯を掲げ、黒板には「本日のおすすめ」が書かれている。

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